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扇沢から鹿島槍ヶ岳
―魅惑の双耳峰を訪ねる山旅―
後立山連峰の鹿島槍ヶ岳は標高2889m。南北に二つの頂上を持つ美しい双耳峰です。台風5号の影響でやや不安定なお天気でしたが、8月3日から2泊3日で登ってきました。
豊科ICから一面に青田の広がる安曇野に入っても、北アルプスは厚い雲に覆われています。それでも、扇沢登山口につくころは、いくらか雲も切れ高い稜線の上に、これから登る種池山荘が小さく見えました。
シラビソやコメツガの樹林帯の中につけられた登山道をひたすら登っていくと、霧がだんだん濃くなってきました。一歩、一歩がとても重く感じます。やがて右手にお花畑が現れ、エゾシオガマヤチングルマが霧に濡れながら、出迎えてくれました。お花畑のすぐ上に種池山荘が建っていました。
昨夜は風と雨が強くお天気が心配でしたが、朝起きると雨は止んでいました。爺ヶ岳の登りから振り返ると、赤い屋根の種池山荘がずっと下に見えました。誰もいない爺ヶ岳の山頂をすぎ、冷池山荘にいったん下ります。
山荘で一休みして、いよいよ鹿島槍ヶ岳を目指して出発です。
山荘をでると間もなく小さな池の横に、キヌガサソウの群落がありました。純白の花びらの美しさが、疲れをいやしてくれます。コバルトブルーのイワギキョウや、淡黄色のイワオウギの咲く布引山をすぎると、雨風が急に強まってきました。ピンクのコマクサが風にゆれ、すぐ目の前をライチョウが横切り、ヒナが5羽ほどおぼつかない足どりで、後を追っていきました。
岩の重なったところを抜けると、そこが鹿島槍ヶ岳の山頂でした。濃い霧で5mほどの視界しかありません。風の音だけが耳元を通り過ぎていきます。感動の握手、握手。みんな疲れなど少しも感じさせない、素晴らしい笑顔です。山荘に戻り缶ビールで乾杯。至福のひとときを過ごしました。
今日は下山日。傾斜の強い赤岩尾根をくだります。はじめから足元が崩れた道で、注意をうながすリーダーの声も真剣です。樹林帯に入ると、濡れた滑りやすい木段がいくつもでてきます。なかなか気が抜けません。やっと大冷沢の瀬音が聞こえ、白い河原が見えてきました。堤防の中につけられたトンネルをぬけ、対岸の広い林道にでました。この3日間ではじめて広くて、平らな場所での休憩でした。
1時間半ほど林道を歩き、迎えのバスで大町温泉郷の「薬師の湯」に向かい、3日間の疲れと汗を流しました。もちろん、今度は生ビールで、あらためて乾杯です。
天候が悪く、立山や剣岳などの展望を楽しむことはできませんでしたが、念願の鹿島槍ヶ岳の山頂に立てた感動と喜びが、ほどよいビールの酔いの中から、ゆっくりと湧きあがってきました。
(歩行時間約17時間10分)
文:三芳町ハイキングクラブ 小林利秋
写真: 〃 牧 英雄
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