秩父鉄道皆野駅を出たすし詰めのバスは、黄色く色付いた稲穂の中を15分程度で秩父市吉田町の龍勢会館の前に着いた。遊歩道と化した車道を椋神社方面に歩き、切り通しを過て視野が広がると、右手に小高い山とその中腹に櫓が見え始める。進むに連れて車道の左手椋神社の境内から舗道まで一杯の観客が今や遅しと「龍勢」の打ち上げを固唾を飲んで待っている。

毎年10月第2日曜日に行われる椋神社の秋の例大祭に奉納されるのが「龍勢」である。内径約10センチほどの火薬の入った筒を長さ20メートル余りの竹筒に縛りつけ、櫓に架けて点火すると、ロケット宜しく空中高く3百から5百メートルも舞い上がる、真に素朴でロマン溢れる代物である。
午前9時から午後5時まで、エントリーされた35機の「龍勢」は15分間隔で打ち上がる。椋神社の前の車道沿いの数百メートルの広場は、所狭しと桟敷が並び、家族やグループで弁当を広げ酒を飲みながら、遠く3百メートル先の山の中腹の櫓を見やっている。
数人のハッピ姿の男達に担がれた「龍勢」は、観客の前を通り櫓に運ばれる。順番が来ると櫓に引き上げられ、櫓に白旗がたなびき発射準備完了の合図があると、喉自慢の朗々たる美声がマイクを通して会場一に杯に「口上」を響き渡らせる。「東西、東西〜、ここに架け置く〜龍の次第は〜、秋空高く舞い上がり〜この武蔵野の国の大空を舞う〜、・・・世界平和と交通安全を祈願して〜、・・・」等と、各「龍勢」の由来等を独特の節回しで述べる。「口上」は1分以上も続き、時折そよぐ秋風に掻き消されながら、澄み切った秋空と緑の山々に吸い込まれて行く。
「口上」が終わるや否や、点火された「龍勢」は、轟音と同時に白煙を引きながら山の端に沿って一直線に空中高く舞い上がる。真っ白の噴煙と紺碧の空のコントラストが素晴らしい。上り切ったかと思う間もなく、発破の音と同時に、赤、青、黄色の煙が立ち昇り数個の落下傘が開く。装着された花火を開かせる落下傘、長い青竹をぶら下げた落下傘等、色鮮やかな落下傘が椋神社の本殿高く越えて風に流されて消えて行く。
中には、弧を画いて山の中腹に落下して、杉林の中でむなしく三色の煙を吹あげる「龍勢」も有ったり、どう間違えたのか空中高く舞い上がる前に、櫓の中途で爆発し只白煙を上げて身もだえ息絶えるものもある。その時は、すかさず「来年は頑張るぞ〜」との声がマイクを通して流れてくる。
秩父盆地の山懐に抱かれて、遠くは戦国時代にその源を発する伝統と、地元の神社の例大祭に情熱を注ぐ、庶民の素朴な且つロマンとユーモアに満ち溢れた行事は、真に台風一過の秋空と共に清々しいものがあった。
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